Orchestra Ensemble Kanazawa

コンサートへ行くということ

君はどんな音楽が好きですか？

君が歩く街にも君が帰る家庭にも音楽は溢れています。それどころか、ヘッドフォンで自分一人のために音楽を独占できて、インターネットで最新の音楽を世界中どこでも楽しめます。こんな便利な時代に、なぜ、何百年も前に作られた音楽を聴くために、わざわざ自分から演奏会場へ出かけなくてはならないのでしょうか。

食べ物で考えてみましょう。

大きなレストランで、いつでも好きなものを食べられる生活は楽しいし、コンビニなどにある調理済みの保存食品も便利です。現代の社会に無くてはならないものになりました。でも、大勢の人が食べるように生産された食品でなく、愛する人のために、友達のために、家族のために、作られた手作りの料理も大切です。それは身体だけではなく心を育てる食べ物となります。

音楽をナマで聴くことは、そんな手作りの料理を心に届けることと同じです。その瞬間、君のために、同じ場所で、ただ一度だけ演奏されている音楽は、人間の心を育てる音楽なのです。

クラシック音楽、そしてベートーヴェン

しかも、何世紀という長い時間が流れ、世の中が変わって、それでもなお人々の心に届く音楽には真実があります。そんな芸術作品を、人生をかけて技術を磨いた音楽家が演奏するのが「クラシック音楽」と呼ばれる世界です。

だから、君がクラシック音楽を目の前で体験すれば、「人が人生の時間を積み重ねて到達する世界とは、なんて素晴らしいのだろう」と、理屈抜きに感じることができるでしょう。人生の時間を積み重ねる大切さとは、つまり人の命の大切さ。クラシック音楽を含む「本当の芸術」をナマで体験する私たちは、命の強さと生きる勇気を与えられることになるのです。

そして、命の強さや生きる勇気を音楽にして、最も鮮やかに私たちに届けてくれるのが、ベートーヴェンです。

彼こそは、「音楽の力で、この世界のすべての人類に何を届けることが出来るだろうか」と考え続け、それを鮮やかに成し遂げた芸術家です。音楽が、ただ美しいだけの飾り物でなく、人の心を動かし、人生を変える力を持っていることを証明した最初の音楽家です。彼の創り上げた9つの交響曲は、音楽史の｢9つの奇蹟｣です。それと同時に「9つの勇気」です。人々が喜びを分かち合って生きていく勇気です。そう、ベートーヴェンは、すべての人類の「勇気の味方」なのです。

そのベートーヴェンの9つの交響曲にこめられた「力」を、「勇気」を、そして「心」を、ベートーヴェン自身が登場して、指揮者やオーケストラとともに、君に届けるのが、この舞台です。

これは、200年前のベートーヴェンから君に届く、勇気の手紙なのです。（響敏也：作家・音楽評論家）